【第59回】プラントの「デジタルツイン」:設計データが運転・保全フェーズで果たす役割

DX

近年、プラント業界における最先端のキーワードの一つが「デジタルツイン(Digital Twin)」です。これは、物理的なプラントと仮想空間上のモデルをリアルタイムデータで結合し、シミュレーション、予測、最適化に役立てる概念です。

このデジタルツインの構築において、AutoCAD Plant3Dで作成された設計データは、まさに「プラントのDNA」として極めて重要な役割を果たします。本記事では、Plant3Dデータが運転・保全フェーズでどのように活用できるかを解説します。

導入:設計データは「プラントの生涯情報源」

デジタルツインにおける設計データとは、「プラントの基本構造と構成要素に関する、最も正確なマスター情報」です。この情報がなければ、デジタルツインは単なる箱のモデルに過ぎません。

デジタルツインにおける設計データのコア情報

Plant3Dデータが持つ、下流工程で価値を生む情報です。

  1. ジオメトリ情報プラントの正確な3D形状と寸法現場作業のシミュレーションVRトレーニングの基盤となります。
  2. インテリジェンス(属性情報):配管の材質、圧力クラス、流体、バルブのメーカー、機器の型式、設置日などの、運転・保全に必要なタグ情報
  3. 関連性情報P&IDで定義されたロジックや、機器間の接続関係

運転(オペレーション)フェーズでの活用

設計データは、安全かつ効率的な運転を支援することができます。

  • オペレーター教育:Plant3DモデルをVR環境に取り込み、仮想プラントでの緊急時対応手順訓練を実施。実際のプラントを停止することなく、安全に訓練ができます
  • 運転シミュレーション:モデルにセンサーデータ(温度、流量など)をリアルタイムで紐付け、運転条件を変更した際のプラントの挙動を仮想空間で予測します。
  • 機器のアクセス性評価:運転員や点検員が機器にアクセスしやすいかバルブの操作空間が十分かなどを3Dモデルで確認します

保全(メンテナンス)フェーズでの活用

設計データは、保全作業の効率と品質を劇的に向上させることができます。

  • CMMSとの連携:Plant3Dのタグ情報CMMS(保全管理システム)と連携させ、故障が発生した際に3Dモデル上の該当機器を瞬時に特定し、過去の保全履歴やマニュアルを参照。
  • 予知保全:機器の運転時間、温度、振動データを3Dモデルに表示し、異常値を示している機器を視覚的に把握。故障する前に部品交換を計画します。
  • ARによる現場保全:タブレットやARグラスで現場の実景に3Dモデルを重ね、作業指示、分解手順、必要な工具情報を目の前に表示し、ハンズフリーで作業を支援します。

設計部門の新たな役割:「データ供給者」

デジタルツイン時代において、設計者は「完成した図面を渡す人」から「プラントのデジタル情報を継続的に供給する人」へと役割が変化します

  • As-Builtデータの品質保証:設計変更や現場変更が確実にPlant3Dモデルに反映され、「常に最新の状態」のデジタルツインを維持する責任を負います。
  • 下流工程のニーズ理解:保全部門がどのような情報(属性)を必要としているかを理解し、設計データにその情報を漏れなく入力します。

まとめ:Plant3Dは「デジタルツインの生命線」

Plant3Dで作成するインテリジェントな設計データは、プラントの寿命が尽きるまで利用され続ける「生命線」です。設計フェーズでの丁寧で正確なデータ入力こそが、プラントの長期的な運転効率と安全性に貢献する、真のDXなのです。

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